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2006年07月10日

●譲渡禁止はSOの価値を下げるのか?

会計基準が求めるストックオプションの評価については、ファイナンスにおけるオプション理論の考え方と、温度差があることがしばしば見られます。

例えば、ストックオプションが税制適格要件を満たすための条件のひとつとして、「譲渡禁止」があります。
「適用指針」には『この特性(譲渡禁止(または制限))の結果、ストックオプションを譲渡することができなければ、ストックオプションの権利行使時点において残存する時間的価値、すなわち権利行使時点から権利行使期間の満了日(満期日)までの期間に対応するストックオプションの時間的価値を実現する方法がなく、これを放棄せざるを得ないため、譲渡可能な自社株式オプションに比べ、その分だけ公正な評価単価は低下すると考えられる』とあります。
しかし、もし合理的に行動する市場参加者がストックオプションを取得したとしたら、譲渡禁止であっても、時間的価値を実現する方法をとるはずです。その方法をデルタヘッジ・オペレーション(※1)とよび、具体的には取得したストックオプションの権利を背景に、現物株市場で売買を繰り返すことにより、時間的価値を実現していくオペレーションを指します。「適用指針」は、ストックオプション取得者はこのような合理的行動をとらないことを前提としていると思われます。
例えば、オプションのプライシングやリスクを積極的にとる金融機関のトレーダーは、彼らが顧客のために複雑なオプションを組成し、その顧客と相対(OTC)で取引します。 トレーダーがその反対取引を他の金融機関と行えば、オプションからのリスクをゼロにすることができます。しかし現実には、殆どの金融機関が(彼らがプロフェッショナルであればあるほど)、そのような反対取引(FULL COVER)をすることはありません。彼らはオプションのリスクを様々に分解してコントロールします。このように、譲渡禁止(=反対取引禁止)であっても、オプションのリスクはコントロール可能なのです。
また、かのウォーレン・バフェットも、ストックオプションの譲渡禁止を「用途を制限された社用車」と例え、『それを与えられた者はその価値を自家用車より低く見積もるかもしれないが、与えた会社の方から見れば、その車の費用を低く見積もることはない。』と、上記指針に対して疑問を投げかけています。(※2)

※1:株価の変動に応じて、直物株の売買をシステム的に行い、オプションからの利益を実現させていくオペレーション

※2:BERKSHIRE HATHAWAY INC. 1998 Chaiman's Letter より

参考文献:ストック・オプション会計と評価の実務(税務研究会出版局)