2006年06月27日

なぜ企業の評価体制の準備が遅れたか1

下記は5月のストック・オプション会計基準導入に向けて、2006年3月時点における上場企業向けアンケート結果です。 
       


<会計基準の施行に対する準備は進んでいるか>
 まだ始めていない     48%
 始めたばかり       35%
 その他           17%
<過去発行分を試算したことはあるか>
 まだ始めていない     78%
 試算した          14%
 その他            8%
<新会計基準導入を受けて、ストック・オプション廃止を検討するか>
 検討していない      53%
 わからない         24%
 検討始めた         7%
 その他           16%
<評価はどこに依頼しますか>
 検討していない       28%
 監査法人          32%
 証券会社          10% 
 会計士、税理事務所等   7%
 社内で対応する       2%
 その他機関         21%
                     (出典 プルータス・コンサルティング)

このように各企業の評価準備への動きが鈍い現状について、以下の理由が推測されます。

 会計基準に対する知識不足
 費用化を契機にストック・オプションは廃止する方向
 評価業務は監査法人等に相談すれば良いであろうとの見通し
 P/Lへのインパクトは軽微であるとの判断

2006年06月22日

確率分布と公正価値

これまで求めたストック・オプションのキャッシュフローは権利行使時に算出されたものです。権利行使時にはその時点での株価は一義的に決まるので、キャッシュフローも容易に算出できます。

しかし、ストック・オプション発行時の公正価値を得るには、上記で算出されたキャッシュフローを発行時に割り戻して、算出する必要があります。
また、発行時においては、将来の株価は未知のものですから一義的に得ることは困難です、従って権利行使時における株価の確率分布を予測する必要があります。 先ほどのサイコロの例ですと、目の出方の確率分布は1から6までそれぞれ一様でしたが、株価の分布は下記の図のとおり釣鐘型の分布となります。

5_1.JPG


したがって、このストック・オプションの評価もサイコロの擬似オプションとおなじく

5_2.JPG

の算式で表すことができます。これがその株式オプションを保有し続けることにより、保有者が将来得るであろうキャッシュ・フローの期待値にあたります。またその期待値は1年後に確定するため、現在価値に割り引くには割引率(discount rate)が必要になりますが、これは後述の「算定技法に必要な基礎数値」である「無リスク金利」を使うことになります。

2006年06月15日

ストック・オプションのキャッシュフロー

オプションの価値の考え方が理解できれば、ストック・オプションの価値も同様の考え方で算出することができます。

現在A株が10,000円であるとき、「A株を1年後10,000円で買う権利(コール・オプション)」の公正評価はどのように算出されるのでしょうか。 上記オプションを評価に必要な基礎数値としてまとめると、以下のとおりです。

4_1.JPG

もしA株が1年後15,000円となっていれば権利行使することで5,000円の利益が確定します。一方8,000円となっていれば、権利は放棄され利益は発生しません。したがって、このオプションのキャッシュフローは

キャッシュフロー=MAX※1(権利行使時の株価−権利行使価格、0)

と定義されます。

4_2.JPG

※1
MAX(A,B)はAかBのどちらか大きいほうを選択するという意味です。

2006年06月08日

擬似(サイコロ)オプションの価値の出し方

ストック・オプションもデリバティブ取引というひとつの金融商品であるからには、その公正価値は「将来のキャッシュフローの現在価値の総計」と言い換えることができます。

以下に、オプションが持つキャッシュフローとは何か、またキャッシュフローから導き出される、オプションの公正価値の考え方を説明します。

オプションの価値に対する理解を容易にするために、擬似オプションを作ってみます。例えば「サイコロを振って4以上が出たら出た目×10,000円がもらえるゲーム」を想定しましょう。このゲームの参加料はいくらが妥当といえるでしょうか?

キャッシュフローとさいころの目の関係は
3_1.JPG
となります。

このゲームもりっぱなオプション取引ですが、その公正価値は次のように算定されます。各目が出る確率は一様に6分の1ずつであると仮定すると

ゲームへの参加料=
(4+5+6)÷6×10,000円=25,000円
=公正価値

となります。

もし、ゲームの参加料が20,000円でよかったとしたら(勿論ゲームですから、一回ごとに損得を繰り返すことになりますが)、このゲームを1,000回することで、よほど運に見放された人でない限り、利益を手にする(Make Money)することができます。この将来のキャッシュフローの期待値がすなわち擬似オプション(サイコロゲーム)の公正価値となります。

ただし、このゲームの賞金(リターン)が1年後にもらえる約束だとしたら、参加料はどう変化するでしょうか。 当然参加料はゲームの開始前に払い込まなければならないため、上記で算出した公正価値25,000円を支払ったのでは割が合いません。 この将来のキャッシュフローの期待値を金利で現在価値に割り引く必要があります。
もし、1年間の金利が10%だとしたら、サイコロゲームの参加料(擬似オプションの公正価値)は25,000円÷(1+0.1)=22,700円になります。

2006年06月03日

金融商品の価値の定義2

市場取引がない場合の理論値

ストック・オプションのように市場取引されない商品の公正評価となると、やはり「あるべき価値」を理論的に求めざるを得ません。

その理論値算定について、同会計基準は『株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられている算定技法等を利用する』と定めています。
以下これらの算定技法を理解するうえで必要となる考え方を説明します。

株式であれ債権であれ、また外貨預金であれ、市場に流通している金融取引の価格はある一定の法則によって決定されています。
それは「その金融取引(商品)がもたらす将来のキャッシュフローの現在価値(Present Value)」という考え方です。

ここでの現在価値とは将来のキャッシュフローを割引率で割り戻した価値を意味します。ちなみにある金融商品が以下のようなキャッシュフローを
生むとします。

2_1.JPG

もし、割引率が10%であると仮定するとこの金融商品の価値(現在価値)は、

CFn:n年目のキャッシュフロー
2_2.JPG

と算出されます。
お分かりのようにこの商品は、典型的な債権のキャッシュフローであり、詳細は以下のとおりです。

2_3.JPG

当然のことながら、クーポンレートと割引率が同じであるため、導き出させた価値は発行時の元本と同額となりますが、もし金利の変動があり割引率が変化すればこの債権の現在価値も変化することになります。
以上のとおり、将来にキャッシュフローを生む商品はすべて、そのキャッシュフローを割引率により現在価値に割り戻すことでその公正価値を算出することが可能となります。
従って、市場に出回っている株の値段も複雑な仕組債の価格も同様の手法により値付け(Pricing)されているのです。ただしそこで用いられる割引率は金融商品のもつリスクによって異なり、リスクが高くなればその割引率も高くなり、結果として現在価値は低くなることになります。


2006年06月02日

金融商品の価値の定義1

市場での取引価値

ストック・オプションに限らず、様々な金融商品の評価については、実際に市場で取引されている価格がその金融商品の価値であるとする考え方が大勢を占めます。

いくら様々な評価手法を使い、理論値とよばれる評価額を算出したとしても、それらの値は現実に取引されている価格ほど説得力は持ちません。ストック・オプション会計基準においても、『公正評価は、第一義的には、市場において形成されている取引価格』と定めています。
一般に現物といわれる、株、債権、通貨、原油、穀物などの価格はその取引市場で一義的に決定され観察することも容易です。金融商品に限らず不動産の価格も同様に市場から知ることができます。但し、デリバティブ(派生商品)といわれるオプション取引などは一部のプロフッショナルの間で相対※1で取引されることが多く、また商品の多様性から一義的に価値を決定することが困難なケースが多いのが現状です。
例えば旧UFJホールディングの株価が6,400円/株で取引されているとします。 同時に1年後行使価格7,000円の同社の株式コール・オプション※2が1,000円/個で取引されていることが観察されているとします。
これだけの情報でトヨタが発行する期間5年のストック・オプションの評価が可能かというと、残念ながらそうではありません。
オプションは発行条件の変数が、現物株にくらべると非常に多く全く同様の発行条件のオプションを市場で見つけることはほとんど不可能といえます。
また上場株式のほとんどは、オプション取引市場が充実していないので上記のような比較さえできないのが現状です。


※1:相対
 取引所を通さず、参加者同士が直接取引すること OTC(OVER THE COUNTER)とも呼ばれる。

※2:株式コールオプション
 株式を購入できる権利、ストック・オプションは通常はコール・オプションとなります。