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2006年06月30日

●取得者側の税務(新株予約権有償発行)

設例をもとに解説していきます。

<設例>
�新株予約権の発行
株式の時価:100
新株予約権の適正時価20払込む

�新株予約権の権利行使
権利行使価額100を払込む
このときの株式時価:150

�取得株式の譲渡(売却)
このときの株式時価180で株式を売却

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〔発行会社の税務〕
新株予約権を適正時価で有償発行した場合、発行会社としては新株予約権の時価相当額の払い込みを受けますが、これを「純資産の部、新株予約権」に計上し、課税はありません。
権利行使時には権利行使価額と新株予約権払込額との合計額(100+20=120)を、「純資産の部、株主資本」に計上し、課税はありません。
株式売却時は、これは取得株式の転売で株主同士の売買のことなので、何ら会計処理はなく、課税もありません。

〔取得者の税務〕

(その1)取得者が個人の場合

�新株予約権の発行時
新株予約権を適正時価で有償発行した場合には、その発行時においては、新株予約権という有価証券を適正な金額20で取得しただけで、取得者には何ら経済的利益は発生しておらず、課税の余地は生じません。

�権利行使時
権利行使時には、時価150の株式を100の払込みで取得することになります。この時の「株式取得価額」は、「新株予約権発行価額20+権利行使価額100=120」となります。ここに取得者は、時価150の株式を100の払込みで取得しているため、一見、経済的利益を享受しており、課税が生ずるのではないかとも考えられる余地があります。
しかし新株予約権は、株価が将来どんなに上昇してもあらかじめ定められた価額(権利行使価額)により取得できる権利をコールオプションすなわち買う権利として価値を付したもので、これを取得した者が権利行使をしても、あらかじめ定めた特典を行使したにすぎず、何ら特段の経済的利益は発生しておらず、課税の問題は生じません。
新株予約権者は、このような株価上昇局面では一見得するようにも見えますが、逆の株価下落局面ではもはや権利行使の機会はなく、この買う権利は放棄してどぶに捨てるしかないというリスクも他方で負っています。損得両面のかようなものをあえて有償取得した者にたとえ得の局面があったとしても、そこに経済的利益があるとは税務は考えません。

�取得株式の売却時
新株予約権の権利行使により株式を取得し、これを売却した場合に株価差益が生じていれば、その経済的利益に対して課税が生じます。設例によれば、180−(20+100)=60 に対して、株式譲渡益課税が生じます。
(上場株式の場合)
課税はすべて申告分離課税であり、上場株式等については、20%(所得税15%、住民税5%)であり、特例措置として平成15年から5年間に限り、所有期間に係わらず10%(所得税7%、住民税3%)まで下がることとなっています。この税率引き下げは、証券会社を通じての譲渡のみに適用があり、上場株式等を相対取引で譲渡した場合はかかる軽減税率の適用はなく、20%(所得税15%、住民税5%)となります。
(非上場会社の場合)
非上場会社株式等の譲渡益に関する税率は、やはり申告分離課税で、平成16年から税率は20%(所得税15%、住民税5%)になっています。

(その2)取得者が法人の場合の税務

�新株予約権の発行時
取得者が個人の場合と同様です。

�権利行使時
これも取得者が個人の場合と同様です。

�取得株式の売却時
法人が新株予約権の権利行使により株式を取得し、これを売却した場合に株価差益が生じていれば、その経済的利益に対して課税が生じるのは、個人の場合と同様です。設例によれば、180-(20+100)=60 に対して、株式譲渡益課税が生じ、これが有価証券売却益として課税所得になり、法人税等が課せられます。